逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ

ある夜の話。
 
久方ぶりに高校の同期と会ったのに、朝まで一緒にいる金がなくて借りたくなくて、結局帰る当てもなく別れた。
歩き疲れて住宅街の公園のベンチで夜桜を下から眺めながら横になる俺は未だにその理由を理解できずにいる。こんな時間だが、歩行者も自転車もバイクも自動車も途切れない。勿論たくさんではないが。
酔っ払ってるせいか、近くに住んでる女の子や、まだ見ぬ通りすがりの美女が宿泊させてくれる妄想と、何故か思い出されてしまう隣の駅でデートした元カノについての苦い思い出と酔いによる物理的な鈍い痛みで頭は一杯だ。
でも、現実は散歩のおじさんが心配してくれるぐらいだ。勿論、それでも極めて嬉しいことである。
そんな僕は実は恩師のお通夜帰りだ。
本当に気楽に馬鹿騒ぎしてしまうくらい実感はなかった。確かに、所謂遺影という奴は、怖かった。言い知れぬ迫力を僕に放っていた。そして儀式は、人に事実を受け入れさせるための装置でもある。
だが、僕は決して恩師を忘れたりしない。僕にとって、死んだりはしないのだ。寂しくなんてないさ。また、心の中で謝るのだ。許してよって甘えるのだ。
だから、君よ、僕が涙を流さなくてもどうか見逃しておくれ。僕は、こんな言葉を生意気だと自覚していても、生きている僕が悲しんだら何もならないだろって、言いたいじゃないか。
嗚呼、あと3時間で起きて始発で帰らなきゃ。寒いのに、頭はまどろむばかりだ。家出人の朝は早いのだ。寝るか。おやすみ。